平成15年度
2581 病原微生物学授業情報

Modified: Nov 12, 2003

質問に対する回答など


10月 7日クラス

質問と回答
「非生物的要因」および「生物的要因」による植物の生育障害はどのように関連するのか?
「非生物的要因」および「生物的要因」は、それぞれ独立に植物の生育に障害を与える場合と、両者が関連して起こる場合とがあります。例えば、急激な気温の低下、雹(ひょう)、除草活性のある化合物の暴露などにより、生物的要因なしで障害を受けることがあります。しかし、低温といもち病の発生の両者によってイネが障害を受けて不作になるように、生物的要因が非生物的要因を助長する場合もあります。植物の病気などの生物的要因は多くの場合、非生物的要因の影響を受けます。つまり、気温、湿度などによって病気が発生しやすくなったり、発生しにくくなったりするからです。Lucas (1998)の教科書の図(プリント図3)では、生物的要因のみによって植物の障害が発生するように理解できますが、通常は非生物的要因(環境)とのバランスが重要で、それについては、プリント図12のDisease triangleで説明しました。詳しくはもう一度次回の講義中でも紹介します。

ヨーロッパにおいて病害に対する収量低下が少ない(プリント図11)のはなぜか?
病害の多くは、ある程度気温が高く、多湿な条件で発生しやすいと考えられます。従って、アジア地域等ではヨーロッパより病害が発生しやすい環境にあります。また、アジア、アフリカなどには開発途上の地域がなお存在し、農業技術もあまり高度でない部分があることも否めないと思います。

温州ミカンはおいしいのに、何故かいよう病にかかりにくいのか?
講義の中で、「育種によっておいしい品種を作り上げてきたが病気にかかりやすい品種もでてきた」と述べたことと、「温州ミカンは(米国のオレンジに比べて)かいよう病にかかりにくい」と紹介したことの2つがつながった質問と理解します。ミカン科カンキツ類の分類や、育種の歴史について、私は詳しくありませんが、温州ミカンは元来かいよう病に比較的強い性質を持っており、その性質を失っていない、という理解でよいと思います。


小テストは成績に反映されるのか?小テストから試験に出題されるのか?
すでに説明しましたように、小テストは講義の理解度を自分で評価いただくとともに、復習の際に理解を深めるのに利用していただきたく配布を予定しています。従って、私は採点しませんし、成績にも反映されません。「小テスト」というより「練習問題」と表現した方が適切だったかもしれません。また、小テストの問題をそのまま試験に出題する予定はありませんが、既述のように、小テストを利用して理解を深めていただくことで、試験もより解答しやすくなると期待しています。


10月14日クラス

質問と回答

etiolationとchlorosisの違いは?
どちらも病害などに伴って植物に見られる黄化です。このうち、etiolationはクロロフィルが形成されずカロチノイドの形成のみが進行し、緑色になるはずの部分が黄色になることを、chlorosisは「退緑」とも訳すことがあるように、もともと緑色であった(ある)組織が葉緑体の崩壊によって黄化すること、を示すと考えるのが妥当であると思います。

腐生生活をしている条件寄生菌はどのような条件が整うと植物に寄生するのか?
Disease triagnleで示していることと同様で、病原、寄主植物、環境条件の関連により、病害が発生する(病原菌が植物に寄生する)ことになります。この条件は、病原−植物の組み合わせにもよって異なってきますので、簡単にお答えすることは不可能です。例えば、カンキツ類緑かび病菌(Penicilliumの一種)は、カンキツ類果実の成熟が進む(糖が増加する、pHが変化する等)のにともなって寄生を進め、発病すると言われています。このほか、腐生、寄生、条件的寄生、条件的腐生についての質問をいくつかいただきました。このようなグルーピングはかなり概念的なもので、はっきりした線引きは困難です。詳しくは、久能ら1998をご参照ください。

disease tetrahedronでベクターのかわりに時間としているものがあるが、、、
私がご説明したのはLucasのテキスト中の図ですが、概念であり様々な説が予想されます。それだけ、病気の発生につながる条件は複雑であることがわかり、興味深いではありませんか?

なぜ植物に共生する微生物がいるのか?
残念ながら明確な理由を私は知りません。植物病原菌は、生きていく上での栄養分を生きた植物体からとり、その際に植物に何らかの障害を与えます。一方で、植物と共生していると考えられている微生物(エンドファイト等)は、植物に明らかな障害を与えないのが特徴です。このような共生関係をどのように築いてきたのか、また、その共生関係を病害防除などに利用できないか、についての研究が進められています。なお、「共生するものに病原が少ないのは何故か?」という質問をいただきましたが、講義の中で紹介した「共生」は、病害を起こさない狭義の共生関係であり、病原菌−植物の関係も広義の共生関係のひとつと考えられます。ご質問の主旨が、「絶対寄生の病原が何故少ないのか?」ということでしたら、栄養源として死物を利用する腐生生活の方がリスクが少ない、ということ理由かもしれません。

生物的媒介者と物理的媒介者とは?
生物的媒介者とは、病原を運ぶ生物、多くは昆虫を意味します。ウイルスに罹病した植物の汁液を吸うことで、口針や唾液中にウイルスもった(「保毒」と言います)昆虫が、新たな植物を吸汁することで、ウイルスを移すのが代表例です。一方、農作業に使用する器具(剪定ばさみ)や風、水滴などによって病原が運ばれる場合、これらを物理的媒介者と呼びます。農機具を使用しているのは人間であっても生物的媒介者とは呼びません(蛇足です)。


ウイロイドは物理的媒介されないとのことだが、、、
申し訳ありません。私の誤りです。ウイロイドは剪定作業などによって汁液伝染しますので、物理的に伝搬されます。どちらかというと、昆虫による媒介(生物的媒介者)がPSTVd(ジャガイモスピンドルチューバーウイロイド)のアブラムシ伝搬以外にはほとんど知られていません。垂直伝搬は重要な伝染方法です。次回の講義で訂正します。

green islandはどうしてできるのか?
green islandは「局部緑化」と和訳されるように、病原存在部の周囲の植物組織が、健常に近い緑色に保たれる現象です。これは、病原が栄養分を十分に得ることができるように、直近の植物組織の恒常性を維持しているため起こると考えられています。講義でも述べましたが、特に絶対寄生菌でよく見られる現象です。実際に病原がどのように植物の恒常性をコントロールしているのか、探してみましたが文献を発見することはできませんでした。

上偏成長とは何か?
葉などの上面が偏って成長することで結果的に葉が巻いたような状態になることを示します。部分的な維管束の障害や植物ホルモンの異常(病原が制御している場合も含めて)によって発生します。

ファイトプラズマはどうして自力伝搬しないか?
植物組織内でしか増殖できない細菌の仲間ですので、まだ未知の部分が多い病原で、私にはお答えできません。12月16日の講義でファイトプラズマについてご紹介する予定ですが、さらに詳しくは、ご専門の東京大学の難波成任(なんばしげとう)先生のホームページをご覧になってください。

ダイズだけで多くの病原が知られているが、自然界では健全な植物の方が少ないのか?
disease triangleでも紹介したように、病気は病原、寄主植物、環境条件の関連により発生します。従ってたとえ病原が存在していても、条件が整うまでは植物は健康です。畑で栽培している植物を「自然界で」と表現することにはかなり抵抗を感じますが、いずれにせよ、通常、健全な植物には、病原、あるいは病原になり得ない多くの微生物が付随しています。

病原は土壌中などで植物よりも長生きするのか?
ご紹介したように、病原の中には、厚膜胞子、休眠胞子、卵などで数十年も耐久するとされるものがあります。このような耐久体は、寄主となりうる植物がそこに現れるのをじっと待っているのでしょう。しかし、植物の種子は条件さえ整えば同様に長期間耐久します。私どもの研究室では10年以上前に購入したトマト種子を冷蔵保存で問題なく使用していますし、ハスでは、さらに長い年月の後に発芽したものが知られています。


小テスト解答のヒント
植物の病気の発生を防ぐためには、病原の伝搬を防ぐのが一つの手段になり得る。では、具体的にどんな方法や対策が可能か、できるだけ多くの例を考えなさい。
講義の中で、植物の病気は、「病原」、「宿主(植物)」、「環境条件」の相互関係により発生するという、Disease Triagngleの基本概念を紹介しました。また、これに、自己感染能力のないウイルスなどの病原で重要な「ベクター」をも考慮したDisease Tetrahedronの基本概念を紹介しました。これらの概念によれば、病原を殺さなくても、各相互関係を制御することによって病気の発生を防ぐことの可能性が示唆されます。病原の伝搬もその対象の一つです。図20を参考にどのようなことに注意すべきか、考えてください。

病原であることの証明にコッホの原則が適用できない場合、病原であることはどのように示すことができるか?自己増殖能を持たない(単利培養できない)ウイルスを例に、その方法を考えなさい。
コッホの原則の考え方を活かして、分離・培養という手法を変更することで対応できる場合があります。ウイルスの場合は、電子顕微鏡でウイルスが植物組織に含まれていることを確認後、葉の汁液を調整して健康な植物に接種し(あるいは、ベクターであるアブラムシに吸汁させてこれを健康な植物上に置いて感染させ、さらには、病気の植物体の一部を穂木として健康な植物に接木をして)、病徴の再現と組織内でのウイルスの増殖を観察することにより証明します。同じウイルスが元病徴を示す植物と、人工接種後の植物に存在するかどうかは、電子顕微鏡観察、免疫学的検定(抗原−抗体反応を利用する)、現在では遺伝子塩基配列解析などによって証明します。同様に、ファイトプラズマは、接木により病原であることが確認されました。菌類の一種であるうどんこ病菌は絶対寄生性ですので、培養できません。そこで、発病部の表面に形成されている胞子を集めて、培養せずに、健康な植物の葉の上に置いて、病気を再現できることで証明ができます。


10月21日クラス

質問と回答

10月14日の小テストについて、病原の伝搬手段である風、雨、土壌水分による伝搬を防ぐのは不可能なのでは?
病原の伝搬手段として、これらのものは重要です。例えば、雨滴により伝搬する代表的な病原として、トマトかいよう病菌(細菌)があります。この伝染を防ぐためには、一般には雨よけ栽培を行います。すなわち、サイドの無いビニールの屋根をかぶせます。風に乗って、病原ウイルスを保毒した昆虫の飛来を防ぐために、藁などで畑の周囲を囲っている光景は農村部ではよく見かけます。土壌水による伝搬は、根こぶ病菌などで重要です。これを防ぐためには排水の向上などの対策をとりますが、完全に防ぐのは困難であることは確かです。ハウスの土壌が病原に汚染された場合、これを除去するのは困難です。これまでに土壌の天地返し(汚染した土壌と深いところの非汚染土壌を入れ替えること)、土壌の薬剤・熱による消毒や還元などを行ってきていますが、いずれも一長一短で、防ぎにくいことは否めません。

コッホの原則以外で病原を決定する方法はないのか?
病気の個体から病原だけを取り出し、健康な植物にかけて病気を再現することが病原の証明には必要ですので、基本的にはコッホの原則に従うことで病原であることが決定できます。コッホの原則の第1段階のみを多例あつめる、すなわち、常にある病害に特定の微生物が伴うことを多くの例を用いて示すことは一つの傍証になりますが、病原の証明ができたとはいえません。

コッホの原則の第4段階を省略する場合はどのような場合か?
基本的には第4段階を省略しない方が正確です。しかし、分離が非常に困難な場合や、時間がかかる場合、あるいは第2段階で分離した病原が単離されていることが明らかであり、その接種の結果、非常に明瞭に病徴を再現できた場合、また、再現した罹病部に分離しなくても同様な病原が観察できる場合は、便宜的に省略します。第4段階を省略して、病原の証明があやふやになるような場合は決して省略できません。また、第4段階を省略する場合でも、第2段階は省くことができません。なぜなら、病原を単離しなくてはならないからです。

病原がウイルスの場合は、コッホの原則の第2段階として、培養ではなく、当初から植物上での増殖などの方法を適用した法が良いと思うが、、、
実際その通りで、病原がウイルスであることが容易に判定できる近年では、病原がウイルスであると推定される場合ははじめから培養を試みたりはしません。しかし、病原が、菌か、細菌か、ウイルスか、不明な場合は今でも培養してみることから病原の証明をスタートします。

コッホの原則で培養できない病原の単離に植物カルスが使用できるのでは?
その通りです。授業では紹介しませんでしたが、例えば、培養できない絶対寄生菌であるアブラナ科植物根こぶ病菌(Plasmoniophira brassicae)は、ハクサイなどのカルスと共存培養が可能で、これを使用することが可能です。

菌類の菌糸や子実体について詳しく知りたい
詳細は次回の講義で紹介します。また、プリントに「菌糸(filamentous, branched)と書いてあるのは、説明不足でしたが、「菌糸は糸状で分枝する特徴を持つ」ということを示してあります。次週紹介します。

きのこはどういう条件で菌糸からきのこへ分化するのか?
興味深い内容です。「きのこ」は、主に担子菌類の有性生殖において形成される子実体です。私たちも、いわゆる「きのこ」ではありませんが、無性繁殖している菌糸から、有性生殖器官を形成するメカニズムを解析していますが、とても複雑な情報伝達が関与していることがわかっています。もちろん、温度、光等の環境条件、栄養条件、これらが絡み合った季節変動などが影響している場合もあります。

菌は何を栄養にしてどう取り込むか?また、きのこが生育するときに有害物質を取り込むことはあるのか?
菌は、消化酵素を細胞外に分泌し、細胞外の物質を利用可能な形に分解してから、細胞内にとりこみ、利用します。細胞外分泌酵素としては、もちろん菌によって異なりますが、セルロース分解酵素、ペクチン質分解酵素、アミラーゼなどがあります。細胞内に取り込む際の特別な器官は分化しませんので、各細胞に物質により、通常の輸送系や、エンドサイトーシスで取り込まれると考えられます。また、次週紹介しますが、細胞間では、糖などを輸送することができます。

分類階級がよくわからない。(例えば)亜種と品種の差は何か?
分類階級は、例えば(日本)国>(関東)地方>(東京)都>(府中)市>幸(町)>(三)丁目のような、分類におけるグループの階級を示すものです。亜種は種のサブグループ(種の半分下の階級)で、品種は種の下の階級ですので、本来、種名>亜種名>品種名の順で記載すればわかりやすいと思いますが、実際には混乱しているものもあり、かならずしも厳密に定義されているとは限りません。また、板書でレースと個体の間に線を引いたのは、私の考えで、レースまでは分類階級ですが、それ以下の分類群はなく、後は個体レベルであることを示したつもりです。

生理的分化型やレースとは何か?
本日は、生物の分類階級を紹介しましたので、(生理的)分化型は品種の下位の分類階級、レースは、さらに分化型の下位の分類階級ということになります。ただし、植物病原学では、生理的分化型は、「寄生性の特徴によって分類された種以下の小分類群。ある種の植物には寄生できるが他の種の植物に寄生できない場合、その差異を分化型として記載する。」と説明しますが、病原の種によってこのような差を分化型にしたり、病原性品種にしたり、単にタイプとしたり、対応が異なります。なお、レースは、「ある植物種に病原性を持つ病原の種の中に存在する、植物品種に対する病原性が質的あるいは量的に異なる系統」と説明されます。詳しくは1月に入ってからの講義で紹介します。

小テスト解答のヒント
「かび」、「きのこ」、「酵母」とは何か、分類学的な考え方から考察しなさい。
講義の中で紹介したように、「かび」、「きのこ」、「酵母」は、菌類の生活環の一部の形態を特徴的にとらえた名称であり、科学用語ではありません。「きのこ」を培地に培養して形成されてくる菌糸は「かび」ですし、Candida sp.は、通常「酵母」状ですが、「かび」状になると動物に対する病原性を発揮する場合があります。すなわち、「かび」、「きのこ」、「酵母」は、生物の分類や系統と関係ない、目立つ形態による呼び名ということになります。そのため、本講義ではこれらの用語はひらがな、あるいは漢字で表記しています。

菌類の生物学的な特徴をあげよ
本日配布したプリントの1頁目や、図4を参考に、他の生物群との違いを挙げてみてください。また、特徴的な生殖方法についても理解を深めてください。


10月28日クラス

質問と回答

菌類は細菌類やウイルスより遺伝的多様性があるとのことだか、、、
そのような説明をした覚えはないのですが、、、。「菌類は、他の生物が持たないような、ヘテロカリオシスや偽有性生殖といった遺伝的多様性を保つ手段を持つ」という説明はしましたので、誤解されているようでしたら、修正してください。

クロミスタ界にはいる「菌」は光合成能を持つか?
クロミスタ界は、褐藻門、珪藻門など、複数の門(なお、説により階級が異なる場合があります)からなり、その一つが卵菌門Oomycotaです。クロミスタ界は、鞭毛の側部に管状の小毛(mastigoneme)を持つことを特徴とする生物群で、その多くは葉緑体を持ちますが、卵菌類は葉緑体を持たず、光合成をしません。

菌がなぜ2つの名前を持つか?
授業で紹介したように、多くの菌(特に子嚢菌と担子菌)は、完全世代名(teleomorph)と不完全世代名(anamorph)を持ちます。それぞれは、完全世代(有性生殖の結果形成される胞子や胞子形成器官)の特徴をも含めた性状をもとにつくられた分類体系による命名、不完全世代(無性生殖環)で形成される菌糸、胞子、胞子形成器官、菌核などの性状だけをもとにつくられた命名です。不完全世代名がなおも使用されているのは、これがないと、完全世代を持たない菌(不完全性菌類)の名前が無くなってしまうからです。結果的に、完全世代を持たない菌は1つの名前(不完全世代名)のみを、完全世代を持つ菌は、2つの名前(完全世代名と不完全世代名)をもっていることになります。何故、ニ名法で命名するのかとの質問もいただきましたが、これはリンネが提唱した、学名=属名+形容詞名(種小名)で命名するのが適当と多くの人が判断しているからで、人の名が、姓+名で示されているのもこれが妥当と考えられているからであるのと同様です。ただし、学名には同姓同名はありませんが、、、、

菌も含め、有性生殖が分類(あるいは種)の基準か?
動物や植物では、基本的概念として、有性生殖(交配)するものが同種であるとする考え方があります。菌でも多くの場合、交配できるグループを種ととらえます。しかし、菌のある種には、群内では交配し得るが、群間では交配しない個体群である、交配群(mating population)が知られているものもあり、これを種とすべきだとの議論もあります。なお、講義の中でも紹介したように、分類はあくまで人為的なグルーピングですので、これ以上、まじめに考えなくても良いと思います。

不完全菌類も必ず完全世代を作り得るのか?
菌は基本的に交配して完全世代を形成するものであり、その機能を失ってしまったか、非常に低頻度でしか機能を発揮しないために完全世代の観察ができないものが不完全菌類としてまとめられます。この前提がただしければ、無くした、あるいは動いていない機能を復活してあげることができれば完全世代形成に至ると期待されます。

菌糸の隔壁構造の違いはどういう機能の差を生むのか?隔壁孔はどのようなものをやりとりするのに使用されるか?
残念ながら詳しくは存じませんが、隔壁構造の差によって、物質や小器官の輸送・移動に差があることが知られていますので、それに関連する機能に差がでると考えられます。

ボロニン小体はすべての隔壁に存在するのか?
ボロニン小体は、これまで50種以上の主に子嚢菌より見いだされていますが、機能を含めまだあまり詳しい解析がされていません。膜につながっており、菌糸が破壊されたときに、隔壁孔をふさぐ役目を持つと言われています。すべての隔壁にあるのか、また、その数は、など、不明の点は多いようです。

胞子は何故形成されるか?
生物の器官形成の理由が何故かを答えるのは大変困難なことです。しかしながら、胞子は大量に次世代をつくるのに向いていると思います。

エルゴステロール合成阻害剤は細胞壁があっても膜に作用して効果を示すのか?
細胞壁はざるのようなものと考えられており、全透性と考えていただいて差し支えありません。従って、細胞壁の有無には関係なく膜に到達します。

菌の交配型とはなにか?
菌の交配(有性生殖)挙動における型で、異なる交配型同士の株が出会うことでそれぞれが雌・雄の機能を発揮する。(自家不和合性植物で言えば、他家と同様な意味合い。ただし、菌の交配型は染色体上の遺伝子によって決定されます)

子嚢菌が交配型が異なる菌株を認識するのは何か認識に関わる物質がだされているのか?
菌株の交配型は、交配型遺伝子座に、MAT1-1か、MAT1-2かどちらかのタイプの遺伝子群を持つかで決定されます。これらの遺伝子の産物の中には、DNAに結合して、DNAの発現の調節に関わるタンパクがあるとされています。酵母で詳しく調べられていますが、その結果、フェロモン(ペプチド)の分泌やその受容体の生産が調節され、以降の交配(有性生殖)が調節されることがわかっています。あまり見やすくはありませんが、さらに詳しくはこちらをご参考になさってください。

菌が異核共存体として存在する期間は何によって調節されるか?
残念ながら、私は詳しい情報を持っていません。非常に長い期間異核共存体でいられる菌も多くあるようですが、これは種だけでなく、菌株や環境条件によっても左右されるのではないかと思われます。

菌の異核共存体が性状に寄与しているのはどうしてか?メリットはあるのか?
異核共存体は、基本的に相同な遺伝子を持つ異なる核が1細胞内に存在すると考えられるわけですが、どちらの核の遺伝子を発現するかが調節されると、性状に変化が生じ、多様性が生じる可能性があります。例えば、片方の核の持つ遺伝子産物による性状が不利になる環境変化が起きた場合に、もう1つの核の遺伝子が発現して、その不利をカバーできるといったメリットが予想されます。以上の2つの質問には、「現代真菌学入門、培風館」pp. 124-をご参照いただけるとわかりやすいかと思います。

菌体の間で遺伝子型が異なる細胞が共存するのか?
「菌体の間」が何を指すのか微妙なご質問です。例えば、同じシャーレの中で、異なる遺伝子型の菌糸(菌糸は細胞により構成される)がごく近接して存在したり、ふれあったりすることは良くあります。また、1本の菌糸を構成する隣り合う細胞の遺伝子型(というより核)が異なることもあります。講義で紹介したヘテロカリオンは、1つの細胞中に異なる2つ以上の核が存在することを言います。

偽有性生殖について詳しく知りたい(たくさんいただきました)
偽有性生殖(本によっては、擬有性生殖)は、菌類に特徴的な興味深い“代替”遺伝システムです。偽有性生殖は減数分裂を伴わないにもかかわらず、その課程で染色体のシャフリングや染色体乗り換えによる遺伝子組み換えが起き得、結果的に親と形質のことなる次世代が誕生する可能性があります。やや詳しくは、「現代真菌学入門、培風館」pp. 128-をご参照いただけると良いかと思います。

植物病原の研究でも動物を使用するのか?
タンパク質や糖の研究においては、抗原−抗体反応を手段として使用することがあり、そのために、ウサギ、マウスなどで抗体を作成することがあります。これは植物病原研究だけでなく、すべての生物学で一般的なことです。

小テスト解答のヒント
「子嚢菌」、「担子菌」、「不完全菌」の関係を説明しなさい。
講義の中で紹介したように、「子嚢菌」、「担子菌」は、それぞれ、完全世代として子嚢胞子、担子胞子を形成する過程をもつ菌群で、系統学的にもこの群別は支持されます。一方、「不完全菌」は、完全世代を形成しない菌を集めた群であり(授業では、未決箱、として説明しました)、系統的に近縁でない、本来子嚢菌や担子菌であるものも含まれます。ただし、完全世代を形成しない菌がなおあるなか、不完全世代名自体を残すことも必要です。

胞子とは何か、説明しなさい。
簡単には、「菌糸などとは異なる形態をとる特殊化した、小さな増殖器官で、無性生殖や有性生殖の結果形成される。」です。一般に、球形などの形態で、そこから次世代が増える形態のものを言います。無性胞子や有性胞子があります。


11月11日以降の分へつづく


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